今、新たな指標を
臨床精神科作業療法研究会代表 青山 宏
2021年になりました。新年のお慶びを申し上げます。
おめでとうという気持ちでもないなという方もいらっしゃると思いますが。年を改めるというのは、何かを切り替え、新しい何かに向かっていく契機になると思います。今年は、東日本大震災から10年の節目を迎えます。改めて、私達の心や体に刻み付けられた記憶を呼び覚まし、追悼と復興への思いを新たにしたいと思います。
振り返れば、昨年は、世界の歴史に残るような1年でした。年初に発生したコロナ禍は、時間が経てば経つほど、世界中で大きな猛威を振るい、その対応に、ただただ追われた年でした。医療や福祉に携わっている会員の皆様も、職場においても家庭においても、肉体的、精神的に、さぞご苦労が多かったとこととお察しいたします。医療福祉関係者への風評や偏見だけでなく、一番つらいはずの感染者に対するいわれのない差別などについて耳にするだけでも胸が張り裂けるような憤りを感じます。何とか、今年が、世界にとってコロナ禍の終息に近づく年であるように祈らずにはおられません。
さて、昨年末の研修会のテーマは、コロナ禍における臨床現場や教育現場の現状や課題に関するものでした。なかでも、精神障害領域での作業療法の現状の報告から刺激のある話題を聴くことができました。特に注目したのは、コロナ禍の現状の中では、従来行ってきた大集団での作業療法の実施が困難になってきているという話でした。長い間、作業療法の現場では、個別作業療法や個人作業療法をしたくても、医療経済の要請の中、集団での処遇をせざるを得ず情けない気持ちになることが多かったように思います。それが、今、感染予防の呼びかけの中で、密を避ける、ソーシャルディスタンスを確保するという立場から、むしろ大集団をしないことが要請されているのです。これは、期せず、個別的処遇への後押しともなる状況ととらえることもできるかもしれません。
また、治療の枠組みだけでなく、治療目標も大きく変わる契機となるかもしれません。臨床実習の治療目標でもよく見かけるような、ステレオタイプの、他交流・コミュニケーションの促進、社会参加と役割の獲得という目標を、しっかり個別に考え直す機会になるとも考えられるのです。密を避ける状況の中、他者との交流やコミュニケーションの促進を目指すのではなく、個別性に基づき、しっかりと対象者の自閉の保障や自我の枠組みを不当に崩さない、セインシティブな対応を考える、貴重な契機だと思うのです。
この、コロナの影響が、実際にどのような治療成績に結び付くのかについても、今までの治療成績とコロナ後の治療成績をしっかり比較し見据えることも重要かもしれません。
コロナ禍の今、むしろ、状況を逆手にとって、新たな作業療法のスタートの重要な契機としてとらえることは大事な視点ではないかと感じています。精神障害領域の作業療法の真の発展に向けて、当会の会員の皆様がエビデンスを含めた検証していただくことを祈るとともに、当会の事例検討が、それを後押しできることを切望してやみません。
「新しき年の初めの初春の 今日降る雪のいやしけ吉事」
(大伴家持)