個別性を踏まえて一歩ずつ
臨床精神科作業療法研究会 代表 青山 宏
令和2年。新年、あけましておめでとうございます。
昨年を振り返ると悲しい出来事が起きたことに胸が痛みます。当研究会の顧問であった五十嵐善雄先生が夏にお亡くなりになったのです。長い間にわたって当研究会活動を強力にご支援ご指導いただいた先生の早すぎるご逝去に口惜しさがつのります。11月の研修会シンポジュウムのために、闘病中、文章を書き残していただいたことにも感謝とともに胸が詰まる思いです。ここに、改めて先生のご冥福をお祈りいたします。なお、研究会機関紙では、先生のご功績に対して追悼企画を予定しています。
それにしても騒々しい年末年始でした。年末には日産のゴーン前会長の国外脱出があり、日本の司法の在り方等に問題提起がなされました。年始には、イラクで起きたアメリカによるイラン司令官の暗殺とそれに続く報復があり、戦争の危機さえ実感させました。
国内においても年が明けてすぐに、我々、医療や福祉にかかわる者にとって、そのスタンスを問いただす出来事も起きました。2016年に起きた相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で45人が殺傷された事件の公判が始まったのです。その公判では異例の出来事が起こっています。被害にあった方々の匿名審理が導入されたのです。被害者の方々が、「甲A」、「乙A」などと呼ばれ審理が進められています。それぞれの方々が、かけがえのない美しい個別の名前をもっていらっしゃるだろうに。偏見と差別、攻撃を恐れてのことのようで、改めてこの最近の社会が示す冷酷さや非寛容の一面を感じざるをえません。リハビリテーションに関わる我々にも、その覚悟を突き付ける出来事だと思います。また、精神医療に携わる者としての、いわゆる責任能力をどのようにとらえるかについてもこの事件は問いかけています。
突き付けられた課題は大きいですが、この新しい年が、人権を重視し個別性を尊重するという私たちの専門職としての立場を鍛え、確立していくスタートになることを願ってやみません。東日本大震災から9年を迎える本年が皆様にとって素晴らしい年となりますよう祈念いたします。