コスパ、タイパを超えて
臨床精神科作業療法研究会 代表 青山 宏
新年のお喜びを申し上げます。
昨年は、本当にびっくりする様な年でした。自らの価値観、世界観や人生観を大いに揺さぶられました。国内外の軋みが老齢の身にも響き渡りました。それにつけても本年が皆さまにとって温かく、ほっこりとした年になるよう祈らずにはいられません。
さて、昨年末の当研究会研修会は、冨岡詔子先生をお迎えして「ポストコロナの時代に向けて精神科作業療法を展望する」をテーマに開催されました。シンポジウムを受けた鼎談の中で、治療に責任を持つ個別担当制、それを推し進めるためには事例検討やスーパービジョンが重要であることが改めて話題となりました。個別担当する患者さんの治療に責任を持つうえで治療構造を振り返ることを通して治療関係を俯瞰的に見直し、自分の態度や癖に気付くなどの自問をすることの重要性などが語られました。また、最近、患者さんと対面することに不安や怖さを感じる実習生や若手の作業療法士がいることなども話題に上がりました。これも単に治療に対する自信のなさというよりは、自分に対峙することによる傷つきを避けたい心性に基づくものなのかもしれません。
振り返ってみると事例検討の中でじっくりと治療関係や自分の在り方を問い続けることは、ある意味つらい作業という側面もあります。しかも、当会の事例検討のようにひとつの事例に3時間をかけて検討するということは、最近のコスパやタイパという言葉が幅を利かせる時代においてはパフォーマンスの悪さということから敬遠される傾向があるようにも思われます。忙しい臨床や自分の時間の配分からより手早く役立つ情報や技術を求めたい気持ちは分かります。しかし、どんな新しい装いの治療技法に飛びついても、結局、治療関係や自分の在り方を抜きにして考えることは出来ないはずです。単純にコスパ、タイパという観点からだけでなくじっくりと治療者としての自分を作り上げるという姿勢も大切ではないでしょうか。事例検討にはもちろんつらい側面だけがある訳ではありません。気づく、分かる、腑に落ちるという楽しい側面もあります。コスパやタイパを超えてじっくりと温泉に入るように、事例検討に浸ってみることの楽しさ、心地よさもあるように思っています。
共に同時代を生きる仲間として、本年も当研究会への皆様のご支援をお願いするとともに、会員の皆様のご健勝を心からお祈り申し上げます。