第158回定例会報告

平成23年4月16(土)
第158回 定例会報告
 
            社会医療法人公徳会 トータルヘルスクリニック 梅津恵美子

今回の症例報告会では、役員の方から3月の震災で被災した会員の現状報告がありました。当施設では、地震直後から患者様の避難誘導やデイケアに通所されている方の送迎や訪問の為の燃料確保など、あわただしい数日を過ごしました。被災された会員様のことを思うと、想像を絶する混乱の中、日々お過ごしの事と思います。そのような現状のなか、症例報告会を開催し、参加させていただけたことに感謝申し上げます。
今回は、山形県上山市に位置する上山病院の施設の概要、作業療法の実践内容を紹介していただき、「衝動行為を繰り返し、閉鎖環境から抜け出せないAさん」というテーマで神保先生が報告してくださいました。Aさんは、稲毛先生から神保さんが引継ぎを受けた症例であるとの事で、質疑応答では、稲毛先生が担当されていた当時の様子と現在の様子を比較し、より多面的に議論が行われたように思います。
発表の前半では、症例の衝動行動は、感情や考えをうまく言語化出来ない事からくるストレス反応として議論されていました。しかし、議論を深めていく中で、一般的にマンガ本は絵やストーリー内容を楽しむものと考えますが、症例は、『「ページをめくる」という自身の行為で、「絵がかわる」現象に満足感を得ていた。つまり、「マンガ本」や「塗り絵」「化粧」は症例にとって独自の意味が存在するのでは』と議論が深まりました。稲毛先生からは、「かんもく症」あるいは「自閉症」的側面だったのではとコメントいただきました。
今回の報告会を通して、症例が自身の所有物を「やぶく」「なげる」、人を「たたく」衝動性について、症例は、『自身の行為で「何を失うか」ではなく「何を得るか」が目的であり、失った物や人を再び「手に入れる」際に求めるのは、「同一性」でなく「類似性」ではないか。所有物や人に対する「愛着心」や「喪失感」は少なく、一般的な体験や経験、人間関係の「学習」あるいは「積み重ね」が困難なのではないか。』との考えにいたりました。
最後に、患者様を評価する際、治療者の価値観や一般常識で『現象』を解釈してしまいますが、患者様それぞれに『現象』に対する意味理解や解釈が存在することに気づかされた貴重な発表でした。ありがとうございます。