令和4年 年頭の挨拶

 歩くことを通して考えた


臨床精神科作業療法研究会代表  青山 宏


 新しい年が始まりました。お互いにとって、少しでも安寧な年になるように祈らずにはいられません。

 当研究会は、1993年4月に設立されてから、この4月で設立29年目を迎え、2023年(令和5年)には設立30周年を迎えることになります。人に例えればアラサーといえ、それなりの長い歩みです。この会員数と規模で30年にわたる活動を続けてくることができた事実を誇りたい気分になるとともに、会に参加し支え続けてくださった関係の皆様に心から感謝申し上げたいと思います。

 さて、私事になりますが、コロナ禍への配慮で度々の中断を余儀なくされ、足掛け2年かかりましたが、昨年末に佐賀から京都までを徒歩で歩き通すことができました。しんどいことの方が多かったですが、歩くという行為を身体が覚えていてくれたことに感謝の念がわきました。一方、歩道の未整備、耕作放棄地のソーラーパネルの多さ、賑わいを失った町など、時代の状況も感じることができました。

 歩くという行為そのものは、南アフリカを旅立って以来、人の大切な行為だったはずです。ただ、現代の便利な生活の中で電車や車に頼り、自分の足で歩くという単純な行為を忘れていた自分に気付くことができました。歩き始めた当初は、力みや高揚感もあり、ただ距離を稼ぐことにこだわっていました。しかし、疲労が積もっていく中でただただしんどくなり、なんでこんなバカなことをしているのだろうと自問ばかりしていました。ところがある時に、身体中の痛みや疲労感の中に、自分の肉体が動いている、悲鳴を上げているといった感覚を覚えるようになりました。歩くという感覚を思い出した、といった方がいいのかもしれません。日頃の生活の中で、頭で考えたり感じたりするという、頭優位の暮らしをしていたのかもしれない、もう少し自分の肉体性を思い起こすことが必要なのではないかと思ったのです。当研究会を長年にわたって支援し続けてくださった、顧問の故五十嵐先生が事例検討の際に度々、身体・肉体の重要性を指摘されていた慧眼に、いまさらながら深く気づかされた契機ともなりました。

 昨年度の研修会は、初めて他の団体とのコラボ開催を行いました。LAPHE研究会との共催で自殺、自傷をテーマにした研修会でした。講義の後、通常の事例検討の半分の時間しか確保できませんでしたが丁寧にまとめていただいた事例報告について参加者の皆さんと事例検討を行うことができました。そこでも、頭や言葉だけでなく、作業などの肉体を通した行為の重要性についても気づかされました。

 当研究会で行っている事例検討が、今後とも神田橋先生のいう「よどみに浮かぶ二個のうたかたが出会った」という因縁に配慮して続けられることを願わずにはいられません。